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岡山地方裁判所 昭和60年(わ)431号 判決

本店の所在地

岡山県倉敷市児島小川一丁目六番一八号

法人の名称

株式会社 マックス

代表者の住居

岡山市内山下二丁目九番一二号

代表者の氏名

西脇義信

本籍

東京都中央区日本橋浜町一丁目一八番地

住居

同都千代田区岩本町二丁目八番一〇-九〇一号

会社役員

西脇健司

昭和二〇年五月二四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小西俊雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社マックスを罰金一、六〇〇万円に、被告人西脇健司を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人西脇健司に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社マックスは、岡山県倉敷市児島小川一丁目六番一八号に本店を置き、繊維製品の販売等を営業目的とするもの、被告人西脇健司は、同会社取締役営業本部長として実質的にその業務全般を統轄しているものであるが、被告人西脇健司は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の除外、架空仕入等の計上により簿外無記名債券の購入等をなし、期末たな卸商品を除外して計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五六年六月一日から昭和五七年五月一七日までの事業年度の所得金額が七、八三〇万九、五〇九円であり、これに対する法人税額が三、一三七万五、七〇〇円であるにもかかわらず、昭和五七年七月一七日、同市児島小川五丁目一番六六号児島税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四、一一七万五、一六五円で、これに対する法人税額が一、五七七万九、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正な方法により同会社の右事業年度の正規の法人税額との差額一、五五九万六、二〇〇円の法人税を免れ、

第二  昭和五七年五月一八日から昭和五八年五月一七日までの事業年度の所得金額が一億五、九七七万四、六四六円であり、これに対する法人税額が六、五五八万八、一〇〇円であるにもかかわらず、昭和五八年七月一八日、前記児島税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五、三一〇万二、七三二円で、これに対する法人税額が二、〇七八万五、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正な方法により同会社の右事業年度の正規の法人税額との差額四、四八〇万二、三〇〇円の法人税を免れ、

第三  昭和五八年五月一八日から昭和五九年五月一七日までの事業年度の所得金額が一億六、八五五万九、二〇一円であり、これに対する法人税額が七、一一二万八、四〇〇円であるにもかかわらず、昭和五九年七月一七日、前記児島税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八、二七〇万八、二九六円で、これに対する法人税額が三、三九五万四、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正な方法により同会社の右事業年度の正規の法人税額との差額三、七一七万三、五〇〇円の法人税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人会社代表者西脇義信の当公判廷における供述

一  被告人西脇健司の当公判廷における供述

一  被告人会社代表者西脇義信の大蔵事務官に対する質問てん末書四通及び検察官に対する供述調書

一  被告人西脇健司の大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通及び検察官に対する供述調書

一  西脇タミ子の大蔵事務官に対する昭和五九年一一月一五日付、同月一六日付、同月二七日付、昭和六〇年一月二四日付各質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一  西脇綾子の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一  蓮実恭之助の大蔵事務官に対する昭和五九年一一月一三日付、同月一四日付、同月一五日付、昭和六〇年一月二二日付、同月二三日付各質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一  森山輝子(三通)、嘉崎竹二、占部久雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  被告人西脇健司、蓮実恭之助(昭和六〇年一月二二日付)、西脇タミ子作成の各上申書

一  伊藤喜之(三通)、小野展彦、三輪洋二作成の各調査事績報告書

一  伊藤喜之作成の売上高調査書、雑給調査書及び雑費調査書

一  三輪洋二作成の期首商品たな卸高期末商品たな卸高調査書及び債権調査書

一  小野展彦作成の告発書及び添付書類抄本

一  登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税決議書綴一綴(昭和六〇年押第一一九号の一)、売上帳一冊(同号の一一)、棚卸関係綴一綴(同号の一二)及び在庫調べ一綴(同号の一三)

判示第一、第二の各事実につき

一  進賀某作成の青色申告の承認の取消決議書写

一  伊藤喜之作成の価格変動準備金調査書

判示第一の事実につき

一  嘉崎竹二作成の修正申告書写(検察官請求証拠番号96)

一  押収してある総勘定元帳一綴(昭和六〇年押第一一九号の二)及び売掛帳一綴(同号の七)

判示第二、第三の各事実につき

一  鵜飼正臣、小山田実、鍛野武捷、藤岡克己、長谷川巌、伊藤寿彦、船曳孝育、西彰、岡部好信、野口英二、矢島秀修、板津昌克、松田伸子、石井良治、門田陽治、藤田陽二、畑山久人、田川光雄、池田茂、藤井洋征、能島安弘、高梨守、花形芳示、広瀬三郎、蓮実恭之助(昭和六〇年二月六日付)、大賀行雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  鵜飼正臣、小山田実、生塩久敬、藤岡克己、長谷川巌、岩見勲、デイヴイド・イー・シユミツト、西詔八郎、西脇末雄、佐藤正一、水野景右、塩谷康夫、佐藤守男、石井雄逸、門田陽治、坂本恭士、児玉勇、田川源弥、石黒、藤井巽、高木信二、鷺内壽雄、尾崎小太郎(二通)、平塚健司、早川基彦、高橋正人、牧野竹次、株式会社タイガ作成の各証明書

一  三輪洋二作成の仕入高調査書

一  伊藤喜之作成の運賃包装費調査書

一  横田俊久作成の事業税調査書

一  押収してある仕入集計表一綴(昭和六〇年押第一一九号の九)

判示第二の事実につき

一  嘉崎竹二作成の修正申告書写(検察官請求証拠番号97)

一  押収してある総勘定元帳一綴(昭和六〇年押第一一九号の三)、仕入帳一綴(同号の五)及び売上帳一綴(同号の八)

判示第三の事実につき

一  西脇タミ子(昭和六〇年一月二五日付)、宮川忠憲の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  蓮実恭之助作成の昭和六〇年一月二三日付上申書

一  嘉崎竹二作成の修正申告書写(検察官請求証拠番号98)

一  押収してある総勘定元帳一綴(昭和六〇年押第一一九号の四)、仕入帳一綴(同号の六)及び売掛帳一綴(同号の一〇)

(法令の適用)

判示の所為は各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告人会社につき更に同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人西脇健司については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内において罰金一、六〇〇万円に、被告人西脇健司については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内において懲役一〇月にそれぞれ処し、被告人西脇健司に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の東京営業本部長取締役としてその実権を握っていた被告人西脇健司が、小売業が成功し多額の黒字を出すや、不況時などに備えるため、自己の妻や経理担当者らに指示し、売上除外、架空仕入の計上、期末たな卸資産の除外などのための帳簿等の操作をさせるとともに、自ら架空仕入先の経営者に虚偽の請求書等の作成を依頼するなどの脱税工作をして、裏資金を捻出したうえ、無記名債券を購入蓄積したり又は従業員の簿外給与に充てるなどの不正手段を用い、三事業年度にわたって合計九、七五七万二、〇〇〇円の所得税を免れたもので、ほ脱率は五八パーセントに及んでいる。こうした事犯の動機と規模及び計画性を考えると、その犯情は重い。他面、被告人会社は本件発覚後素直に非を認めて本税及び重加算税等の納付を終えているほか、本件のごとき反社会性、反倫理性を含む行為に至ったことを深く反省し、その背景となっていた従前の同族会社的体質からの脱皮を図る決意を示していることは考慮に値する。加えて、被告人西脇健司においては前科、前歴がなく、本件を契機に会社経営者として企業のあるべき社会的責務の自覚を深めつつあるばかりか、被告人会社の発展のためにより一層の情熱を燃しているところであって、発想が豊かで若々しさに満ちている点からみて十分に期待できるものがある。

以上の諸事情を勘案し、また、同種事犯の科刑状況とも対比して検討するときは、主文のとおりの量刑をもって臨むのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木正義)

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